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ソードマンの独白3

 この街を抱く樹海を抜けて、天空の城へと至る。おれたちがここにいる目的は、それだ。とはいえ、日々の探索がかならずしもそれに直結しているわけではない。今日もまた、おれたちは公宮の依頼を頭の隅にだけおいて、日々の宿代を稼ぐ行為に没頭していた。
 今回の探索はわりと調子がいい。道中――情けないと言いたくば言え――恐ろしく強力な魔物はうまいこと通り抜けることができたし、手におえる程度の方もさして数が出なかった。魔物を刺激せず、いくらかの樹海の恵みを手に入れることにも成功した。
 そんなごきげんな一日は始まったばかりだ。今日はどれだけ地図が書けるだろうかとか、もしかすると新しい樹海の恵みが手に入るかもしれないぞとか、そんなことを考えながら、おれたちは今まで足を踏み入れたことのない小道へとはいりこんだ。
 ほんの少し進んだだけで、残念ながらそこは袋小路になっていた。地図に行き止まりを書き入れてから、あたりを見回す。もしかすると、どこかへ通じる何かがあるかもしれない。
 その時、おれの視界の隅をなにか小さなものが横切った。新緑の緑の中、茶色いそれに、すわ魔物がいたかと剣をかまえる。
 だが。木々の間で驚いたようにおれたちをみるそれは、どうみても無害そうな小動物だった。
 樹海にもそういえば無害な小動物はいたのだな、と。おれたちはほっと肩の力を抜く。
 おれたちの雰囲気の変化を感じたのだろうか。小動物――てのひらに乗るほどのリスは、可愛らしくこくびを傾げた。
 思わず、つられて似たような動作をしてしまう。背後で誰かが小さく笑ったのが聞こえた。
 おれはしゃがみこんで、リスへと手を伸ばした。途中で気づいて、ごつい革のグローブを外す。その間も、恐れる様子もなくリスはおれを見あげていた。
 再度手を伸ばした。リスは目を細めると、まるで猫のような仕草で、おれのてのひらへと頭をすりつけてくる。小動物独特の高い体温と、薄い毛皮の感触に、口元がほころんだ。
 瞬間、まるで訓練されたもののようにリスはおれの腕をかけあがる!
 あっという間もなく荷物いれへともぐりこみ、何かをくわえて藪の中へと姿を消した。
 おれはあわてて荷物をあさった。
 ……ない。
 白く小さなもの。それでいて、樹海で生き残るにはおそらく何よりも大切なものがない。
「あ」
 茫然とおれは声をあげる。しばらくの沈黙の後、どうした言ってみろと今にも爆発しそうな声が聞こえた。
「ええと。糸とられたような」
 瞬間、後頭部を激しい衝撃が襲う。たまらずバランスを崩すと、ついで、レザーアーマーの肩を踏みにじられた。
「その肩の上に乗っているのはカボチャかそれともジャガイモか」
「宿へ帰ってからにしましょう」
 殴られたことより踏まれたことよりなにより、おれはその穏やかな声に総毛だった。
「家畜は粗相をしたらその場で叱らなければだめだ」
 ふんと鼻を鳴らすアルケミストを、まぁまぁとメディックがなだめている。おれは、振り返ることはできなかった。
「ですが今から街まで戻らなくてはいけないので」
 じんわりと身体中に冷たい汗がにじむ。ため息の気配や、装備を確かめる音。行きますよと声をかけられ、おれは飛び上がった。
 無茶はしないようにと言うメディックに、おれはがくがくと頷いた。
 メディックは薄く笑みを浮かべる。そして、小さく頷いた。
「では」
 出発の号令に、それぞれが唱和する。そうだ、まずは街へ帰ることだ。街へ帰ってその後。
 おれは再度ここへと来ることができるだろうか? 

fin.
2008年03月01日 おんせんにっき