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ソードマンの独白 -4

 どちらかというと繊細な方だと思っていた。なんだかよくわかんないけど、頭のいい人はいろいろ気にするんだろうなーという感じで。で、現在。おれはその自分の見立てに対して、大いに疑問を抱いている。……繊細なんじゃなくて、単にわがままとゆーやつじゃなかろーか。それどころか、むしろ無神経というほうがいいんじゃないだろうか。うん。それにプラスしてズボラとか適当とか。本人に確認する気はさらさらないけど、他のギルドメンバーに聞いてみる価値はあるかもしれない。
「ちょっと、待て、って……」
 あいもかわらず、必要な分だけ着衣を緩め、必要な場所にだけ触れるアルケミストに、おれは抗議の声をあげながらそんなことを思っていた。
 確かにそう、いちいち口説き口説かれ目線の行方がいろいろ物語るみたいな間柄じゃないけれど。ていうかやれっていわれたら、おれの方がさきにごめんなさいするわけだけど。それにしたって、それにしたって、自分は襟元すら緩めず完全に着こんだまま、おれの方もなんかこーめっちゃ局部だけ露出? みたいな? 情けないとゆーか、直接的すぎるというか、ちょっとヒドくないかと思う。いやなんていうか、じゃあ来いであっさり許可が出るのはいいけど、ホントにそのままこれですよ。自分で抜くわけじゃないんだからもーちょっとこう、その、ああああああ!
 思い描いた想像に思わずじたばたと枕に顔を埋めて暴れたくなるけど、今はそう、局部をつかまれてたり撫でさすられてたりしているわけで。ということで、必死でおれは自らの衝動を抑え込んだ。
「っ……だから……」
 もう一個必死ついでに、緩やかに自分のの先の方を這いまわる器用な指を邪魔しようと試み……っ……うう……ちょ、おれのゆびまでつかうとか……そういう……あうう。
 余裕たっぷりのというか、切羽詰まる理由なんてそもそも存在しない、面白そうなどうした? を、一生懸命睨みながら、おれは乾いた唇を濡らした。
「せ、せめて脱いで……し……」
 「たい」まで言う前に、唇をふさがれた。……うん。せめてこういう。いきなり局部とかなしだよな。な。そんなことを思いながら、しびれたようになる舌を差し出し、口中を動き回る舌に応えた。からかってるみたいに、つついては逃げるそれを必死で追いかけるのは、なんだかありとあらゆる面のいつものことっぽい。追いかけた舌先を軽く吸われ、思わず身体を震わせた。アルケミストは小さく笑って、唇を離す。そして、耳元に口を寄せてきた。
「気に入らないなら、オマエが脱がせればいいだろう」
 そう言って、おれのシャツの下にてのひらをもぐりこませ、ゆびさきで脇腹を軽くひっかいてくる。くすぐったいんだかなんだか微妙な刺激に、おれは思わず目を閉じる。面白そうな笑い声を聞いたかと思うと、再度おれのに指がはった。性急さもなく、わざとらしい引き延ばしもなく、おだやかに触れてくるゆびに、おれは少しほっとして息をはく。抱き寄せられるのも、こめかみのあたりに唇が触れるのも、おいつめられる感じじゃなく気持ちいい。
 でもやっぱり服の感触じゃなくて、じかにちょっと低い体温を感じたくて、おれはそろそろとアルケミストの襟のあたりへと手を伸ばした。そっと表情をうかがうと、面白そうに見下ろしてくるのと目があった。口の端がきゅっともちあがり、性格悪そうな世界征服の笑みが浮かぶ。
 おれは、慎重に、彼のスタンドカラーをゆびさきで探った。ええとまっすぐ引っ張っちゃだめなんだろうなとか考えてたら、外し方を教えてくれた。……なるほど、おぼえてられるかな。今後のために。とかそういう。そのままもそもそと下の方に移動したら、そっちはさすがにわかるんだろうなとからかわれる。ちょっとむっとしてわかると答えたら、ま、がんばれといういかにも期待してないような声が返ってきた。くそ。
 丁寧に仕立てられた生地を両方の手でとらえたところで、おれは思わず声をあげていた。たいくつしたのか、もともとそのつもりだったのか。おれのへの愛撫が再開されたからだった。それも、その、指とちょっと違った感触のが当たってるというか、ぐっと腰を寄せ、おれのと彼のがまとめてこすられている。さっきの間に下ちょっとだけ緩めたのかよほんっと必要最小限というかみもふたもないというか……うあ、そ、それはちょっと……!
 ぐにぐにと触れる芯を持った熱い感触が、なんかぬるっと滑る。彼はてのひら全体を使って撫でまわすようなことは絶対しないけど、そんなのもしかしてぜんぜんどーでもいいんじゃないかとかなんとか。つるつると滑って、多分彼のてのひらでとらえきれてないんじゃないかと思えるそれが、とにかく一人じゃ絶対ムリな気持ちよさを伝えてくる。
 どうしようもない声をあげながら、おれはぎゅっと彼の服を掴んだ。てのひらの下、はりのある布地がしわになる。
「っ……」
 息を詰めて、肩口に顔を埋める。笑い声の吐息が耳にかかるのも、指先が促すみたいに先の方を撫でるのも、やたらよすぎてどうしていいかわからない。このままでいいかなんて、ちょっとだけ決意が緩む。そんな自分を鼓舞するみたいに、顔をあげて斜め上の顔を睨んだ。顎しか見えないけど。睨みつけながら、両手をぎこちなく動かして、彼の服の留め金を外そうと……。
「っ、あ!」
 ぎゅっと親指で強く下から上へと撫でられた瞬間、おれは力加減を失って、てのひらの中のを思い切りぶっちぎっていた。
 煽るように動いてた手が止まる。息詰まるような沈黙が落ちた。ええと。ええと、と、おそるおそる身を引きはがしつつおれはアルケミストの顔をうかがう。……ちょっとなえた。
「え、ええと、ごめん」
 ぺいっ、と、彼は平手で――でも注意深く指先だけを使って、おれの額のあたりをはたく。そして、深くため息をついた。って、不可抗力! 不可抗力っ!
 おれの抗議を笑顔で却下しつつ、アルケミストは身を起こした。え。なに、中断? え?
 半端な姿勢のままかたまっていると、アルケミストが戻ってきた。作業机(せいいき)から何か持ってきたらしい。んん?
 どうしたんだろうと物を確認しようとしていると、おいと低く呼ばれた。何だろうと思ったら、彼はおれの服に手をかける。あ、脱げとおっしゃる。中断というわけじゃあないとわかって、おれはおとなしく彼が促すのに従った。
 さらに、なぜかおてを要求されたので、よくわかんないけど両手を差し出した。すると、器用な指先があっさりとおれの親指同士を結わえた。……?
 くん、と、おれは何となくそれを左右に引いてみた。
「……力だめし?」
 ゆっくり引くと厳しいかもしれないけど、多分素早くやればそんなに苦労しないで切れると思う。多少親指は痛いかもしれないけど。
「何でそうなる」
 呆れた様子でアルケミストがそう言った。ああうん。確かにいまそーゆーことをする意味はないですよね。ていうかそんな暇があったら、多少なえたそれをどーにかすべきだと思う。けど。じゃあ。
 何のことかわからないという表情で首をかしげるおれを、アルケミストは引き倒した。さっきとは違って、うつぶせになるように。って、痛い。肩、腕、ひねってる、ひねってる!
「篭手も持ってくるべきだったか」
 なんだか独り言みたいに彼は言った。そして、両の親指を結わえられてるおかげで、ものすごく身動きしにくいおれの頭を抑えた。
「な、んで、そこで篭手が出てくる」
 おれは必死で顔の向きを変える。だってそうしなきゃ、息をするのもつらい。
「自重しろと言っているんだ」
 ぶっちぎったらおしおきだからと、楽しそうに言いながら、彼はてのひらを腰の方にすべらせた。そして、腰をあげろと命じてくる。ってこの姿勢でどうしろと!
 おれの抗議には、腰をあげないと脱がせられないんだがと返ってきた。それもそうかとは思うけど、だからと言ってこんな格好で続きをするとでも言うのか。無理。なえるとかなえないとか以前に無理。
 そしたら、さっき倒したときに下を忘れてたすまんと謝られる。なんかうさんくさい。けど、おれはちょっと待ってと何とかして膝をたてた。……って。ええと。どういう格好ですかまじで。
 両肩にかかる重みを、腕を首のあたりにもってくることで分散させる。半端に腰を浮かせるのは無理だから、膝を立てて、高さをつくる。……無理があるというかなんというか、かなりこれって、恥ずかしくないか。ていうかこの姿勢で脱がされるの待ってるって……むしろ四足になってる方がマシな気がする。
 そんなおれの思いに気づいているのかいないのか。彼はベルトを緩めると、下着ごとあっさりと膝のあたりまで服を落とした。ええと。倒れていいのかなーとか思いつつアルケミストの様子をうかがおうとしたところ、おれはあんまりなじみたくないけどなじみのある感触にひゃあと間抜けな悲鳴をあげた。
 とろりとした粘性の高い液体がむきだしにされた尻にたらされていた。その違和感のある冷たさにおれはふるりと身体を震わせた。そして。
「って! ちょっ……いれないつったじゃん!」
 うん? と。ものすごーくすっとぼけた声だった。続いて、ぱさりと上着を脱ぐ音が聞こえる。何だろうと思ったら、目の前に見慣れた上着が来た。白い指が、さっきおれがぶっちぎったボタンを指している。……。
「安っ!」
 しばしの沈黙の後、思わず叫んだところ、ぺいっと尻をたたかれた。いてっと情けない悲鳴をあげるのとほぼ同時、後孔に指先が触れる。ぬめぬめしたオイルの感触を探るみたいに撫でられて、おれはおもわずきゅっと尻に力を入れていた。
「反省の色がないな」
 だから不可抗力っ! アンタがあのタイミングでああいうことするからとか絶対あんじゃん! 別にわざとぶっちぎったわけじゃないっつーの!
「……そのへんの力加減ができるよーにならない限り、楽しませてもらうことができないんだがな。困ったことに」
「う……」
 いつまでマグロでいる気だと言われ、おれは言葉に詰まった。されるだけでいいというならそれもありだが、それじゃあいやなんだろうとさらに追い打ちをかけられる。……はい。オマエのよーな粗忽ものに触らせると寿命が縮むとか、そこまでひどくないと思うんだけど、今日についてはなにも反論はできません。
 ぐうのねも出ないトコまで追い詰められたところで、彼の指先が内部へと侵入してきておれは息を詰めた。
「別に痛いわけじゃあないだろう?」
 肩とか首痛いです。っても、彼が聞いてるのはそーゆーことじゃあない。器用な長い指が内部を探ってることについてだろう。実際、微妙な圧迫感こそあるものの、痛いかといわれると別にそんなことはない。たっぷりと足されたオイルのぬめりが、彼の指がずるずると内部にはいりこんでくるをたやすくしていた。力を込めても、筋ばった手の感触がやけに生々しく感じられるだけで、彼の動きを邪魔するには至らない。
「う……」
 左右どちらかに腰を倒せば、内部を探るものから逃れることはできるだろう。とはいっても、了解を得ずにそういう無茶な動きをするとさすがに傷つくんじゃないかとかいう気がして、どうも逃げることができない。ついでに許可は絶対出ないだろう。なんか、目を閉じてぞわぞわする感じに耐えながら、おれは背を丸めるようにして身体をかたくしていた。
「……や……だ……」
 ほんの少しの痛みとともに、圧迫感が強くなる。熱くなっているところに、新しく冷たい感触のオイルがたらされた。かとおもうと、さっきまでとはまた違った複雑な動きで後孔をいじられはじめた。
 いつもだと、目に見える範囲にアルケミストがいるし、手を伸ばせば触れることもできる。……だいたい、そんなふうにすれば抱き返されたりとかそれなりの反応もくる。だけど今はそうじゃない。見えるのは枕とベッドのはしっこだし、手を伸ばして触れるのもそれだ。他の誰がいるわけじゃあないんだから、今、内部を探っているのはアルケミスト以外の何者でもない。んだけど。
 いつもと姿勢が違うせいで、与えられる感覚が違う。多分、触れてるとこもずれてる。それでも、せめてそうしてる相手に自分から触れることができたら、顔が見られたら。なんだか妙に心細くても、安心してられる気がする。
「どうした?」
 穏やかな声に、少し体の力が抜けた。ずるりと体内から指が引き抜かれた感触に、おれは思わず声をあげる。必死でアルケミストの視線をとらえようとするも、うまくいかなかった。うまく動かない舌を動かして、イヤだと言っても、ホントにイヤだとは思われてないみたいだ。
「や……」
 今日はやけに多いな、と。笑いを含んだ声がふってくるばかりだった。
 ずるずると腰を落としていこうとすると、支えられた。肩口に唇が触れたのに反応してぴくりと身体が動く。
 ぐっと、熱いものが押し当てられた。身体に力を入れても、オイルの力と、結局は痛い目にあうだけとわかっているせいか、今一つ抵抗にならない。確実にずるずると拓かれてく感触に、おれは情けない声を漏らすくらいで、あとはされるがままになっていた。
 一番奥までおさめられたところで、乾いたてのひらが背中を撫でた。思わず声をあげると、背中のまんなかあたりを軽く舐められる。ゆびさきで優しく股間を探られ、身体に力が入る。内部に収められたものが、存在を主張した。
「……苦手か?」
 いつもにくらべて勢いがないとでも思ったのか、怪訝そうに聞かれた。一生懸命頷いたが、応えはなかった。注意深く、内部のものが引き抜かれる感触。そして、輪にした指で自分のをこすられる動き。声をあげ、ぎゅっと目を閉じる。
 失敗したと思った。目を閉じると、いよいよ内部をえぐるものと、自分のをいじるものの感触しかわからなくなる。もっとも今までだって、枕くらいしか見えてなかったんだけど。
 まぁ大丈夫そうだななんてどこで判断したんだよ。ぐちゃぐちゃいう音と一緒に、内部をリズミカルにこすられ、鳥肌が立つ。でも、わかってる相手に、いい場所を狙われてるんだから、自分のはあっさりと勢いをましていく。せめて、てのひらをとらえたいと思った。瞬間、親指に細い紐が食い込む。目を見開いた。
「あ……ああ……」
 首筋に唇が触れ、髪が肌を掃いた。無理にでも触れたいと思うのを、くいこむ紐の痛みが戒める。引きちぎるタイミングを無意識にはかったところで、それを禁じるアルケミストの言葉が浮かぶ。どうしようもなくて、身体をくねらせた。
 腰に食い込む指。早くなる、内部をこするものの動き。いつもなら、少しでもその瞬間をひきのばそうとするところだけど、今回はなかった。むさぼるように与えられる快感を取り込み、蓄える。いつもよりすこし違った角度で、内壁をつかれたとき、それは訪れた。ふるりと背中が震え、ぎゅっとくわえこんだものを締め付ける。向うもわかったのだろう。促すように、おれのものに触れていた指が動いた。遠慮なく吐き出している間に、ぐっぐっと二度ほど深くえぐられ、引き抜かれた。
 腰が落ちるのを、今度は妨害されなかった。背中に熱い飛沫が散るのを感じながら、そういえば出すときに名前も呼ばなかったし宣言もしなかったななんてことを考えていた。


 作業机(せいいき)前の椅子に座ってボタンをつけなおしているアルケミストを、おれはベッドに転がって眺めていた。……ベッドを整えたり身体をふいたりとかした後、その作業を始めたところにまとわりつこうとしたら追い払われた。ぷつりと糸を切り、上着を椅子の背にかける。道具をしまって立ち上がったところで、おれは顔をあげる。
 ……なんか驚いたよーな顔されたんだけど。んん?
 なんかやったっけと首をひねっていると、ベッドが小さくきしんだ。ポンと頭に乗る手に我にかえり、おれはいそいそと場所をあける。
「悪かったな。ああいうのがそこまで苦手とは思わなかった」
 静かな声に、彼が悪気も何も持ってなかったことを知る。おれは、ずるずると姿勢を変え、さっきよりすみっこにねっころがると、ぎゅっと彼の腰に抱きついた。さらりとした薄い布の感触が頬に気持ちいい。髪をすくゆびさきの感触に目を細めた。
「で。……どれが苦手だったんだ?」
「……」
 見上げると、首をかしげている相手と目があう。全部とハッキリ宣言すると、おれは抱きつく腕に力をいれた。あ、くそ。なんか面白そうにしてる。ぜったいしてる。うう。なんだよそれ。すっげーなんか心細かったって言うか落ち着かなかったっていうか、くそ。わかんなかったのかよ。わかっててやってたのかよ。
 どっちにしてもなんかむかつくから、目の前の腰に適当に歯をたてる。ついでに、ちょうちょ結びの紐を口でひっぱってやろーかと狙いをつけてたら、てのひらで妨害された。
「しかし、オマエのそういうのを見てるとひとそれぞれというのを実感する」
 はりつくてのひらを、頭をふってふりおとしてたら、なんかイヤなことを言われた。昔の知り合いだっていう人の顔を脳裏から追い払いつつ、おそるおそる見上げる。……鼻をつままれた。やめー。
「出すもの出して、よくそんなにくっついていられるな」
 てのひらを追い払いつつ、彼が言った意味を理解する。……。
「……イヤ?」
 なんとなく頬をよせつつ尋ねると、言葉を濁した返事がくる。……え。
「夏場でもないし、我慢できないこともないが」
 イヤなんだな。……ホント、無駄がないというか、即物的というか。次に続いた、そういうのは女の子に嫌われるといわれたことはあるけどそんなもんだと思ってたというのは、鉄板でイヤなこと言ってるにちがいない。だから、イヤだっつってんじゃん! ……知らないのもイヤだけど。
「夏場は我慢できない?」
「そもそも、やりたくない」 
 なるほど。とかおもってると、髪の毛をひっぱられた。
「って、それ以前にオマエ、夏になるまでこうしている気なのか?」
 ぎゅっと反射的にてのひらに力が入った。それに遅れて、彼の言葉の意味がゆっくりと浸透してくる。おれは顔をあげた。彼はおれの反応に、むしろ不思議そうだった。なんで、と。声が出てたかどうかわからなかったけど、彼には通じた。
 彼はおれを撫でてる方とは反対側の手を持ち上げた。すいと人差し指を立てて、天を指す。
「ここまで来ておいて何を言っている。おれはそんなにも時間をかける気はない」
 ああ、世界樹のことか。おくればせながら、やっと彼のいう意味がわかった。だけど、世界樹とこうするのをやめるっていうのに、わかりやすいつながりが見いだせず、おれはもう一回なんでと尋ねる。彼は眉を寄せた。
「探索するところのなくなった世界樹に何の価値がある」
「……そうだけど」
 オマエは終わった後もしがみつく気かというのに、首を横にふる。だろう、と、彼は頷いた。
「だったら、次を探すしかないだろう」
「そう、だけど」
「ギルドが解散するかどうかはわからんが、おれはとどまるつもりはない」
 ハッキリとした彼の言葉に、おれは黙って頷いた。
「オマエは字もかけないし、そうなったら会うこともなくなるかもしれんな」
 それはさすがに寂しくなるか、と。全然寂しくなさそうな表情で彼は言う。おれは彼の腰を抱く手に力を込める。
「い、一緒に行けばいーじゃん!」
 一息に言い切り、目を閉じた。息が詰まるみたいな沈黙を感じた。おそるおそる片方ずつ目をあけると、彼はちょっと驚いたみたいな表情だった。
 そして、ああその手もあるかと、いかにも思いつかなかったという表情でつぶやく。おれは眉を寄せた。
「その時になってから考えればいい。……まだ、先の話だ」
 なんだかさっきと微妙に矛盾してるようなことを言って、彼はおれを撫でた。そして、寝るから放せという。
 おれは、しぶしぶと彼の腰に巻いた腕を緩める。そのままにしてたら、邪魔だと解かされた。明かりを落とし、上掛けを引き上げる相手に腕を伸ばす。しびれるぞと穏やかに諭される。じゃあと指を絡めてみようとする。ぺし、と、はたかれた。寝ろ、と。少し不機嫌な声で言われる。……嫌がられたっぽい。それでもなんか我慢できず、腕をとって肩に額をおしつけた。なんだかため息をつかれたけど、追い出されたりしなかったので、おれはそのまま目を閉じた。

fin.