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邂逅

 コイツは敵だ。初めて見た時から、おれはそう感じていた。
 エジプトでの初単独仕事。笑うしかないようなミス――落し物しましたてへなんて、サラリーマンにも劣る! そんなミスを犯したおれが、ほうほうのていでロゼッタ協会につなぎを取ったところ、え? オマエもう次の仕事はいってんじゃんとか言われてしまった。ちょっと待て。確かに落し物でにっちもさっちもいかなくなったおれはどうかしてる。でも、《宝捜し屋》協会として、それはどうなんだ。
 うんまぁ、取り返してきなよとかなんとか、適当なことを言いくるめられて、極東の私立高等学校に侵入する。本来なら多分、協会の力添えや何かでもっと楽に行けるんだろうけど、用意してあったはずのそれはすでに侵入(りよう)済みとあって、そうはいかなかった。一夜漬けでがんばって編入試験をうけ――後で聞いたところによると、英語と特技として申請して試験されたドイツ語中国語がなければ危なかったらしい――種々生活用品とりそろえ、高校生の常識なんてのとプリペイドの携帯電話をもって乗り込んだ。そうやって、さてこれからが本番だと決意を新たにした編入初日、おれはあっさりと目的の人物に遭遇した。
 ようどじっ子と、揶揄するように言って、ヤツはあっさりと情報端末(H・A・N・T)を差し出した。何度もやつの顔とロゼッタ協会エージェントの象徴とも言えるそれを見比べるおれに対し、いらないのかと笑う。
「ありがとうございましたは?」
 そんなわけないだろうと、ひったくるように受け取ったおれに、ヤツは幼稚園児でも諭すかのような口調で言う。
「……どうも」
 心がこもってないなー、と。どこかの安いコメディアンみたいに、ヤツは天を仰いだ。
「まぁいいや。おれももうしばらく居座るけどね。――正体の暴露(ボウロ)はお互い様ということで」
 口前で人差し指を立てて、わざとらしいウインク。
「……暴露(バクロ)だろうが」
「ユーモアだよ、ユーモア」
 そう言って、徒然なるままに日暮硯に向かいてなんてフシをつけて吟じてみせる。
 ああやっぱり、どうみてもコイツは敵だ。とりあえずおれは、交換条件には頷きつつも、部屋に帰ったらすぐに情報端末(H・A・N・T)でヤツのことを探ろうと心に決めた。