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 葉佩九龍は、じっと皆守甲太郎を見つめていた。いつものように、アロマをふかしている皆守は、眉をよせた。なんだか、葉佩の視線が獲物を狙っているように見えたからだった。
 いったい何なんだと問おうとした瞬間、金属製のパイプが唇から消えていた。
 ぽかんとする皆守に対し、得意げに笑った後、葉佩はパイプをくわえた。
「……返せよ」
 一時の驚きから立ち直り、皆守はそう要求した。だが、葉佩はにやにやと笑ったまま、パイプをくわえている。いよいよ、皆守の眉間のしわがふかくなった。そして。
「……九ちゃん」
 実力行使から、葉佩はこともなく身をかわす。
「何なんだ、オマエは」
「別に」
 葉佩は、パイプを唇からはずして笑った。そして、すばやく皆守に近づく。
「……っ……!」
 ほんの少し皆守はもがいた。驚きの表現程度だった。ゆっくりと皆守の口中を味わってから、葉佩は身体を離した。ぺろりと唇を舐めて問う。
「どっちが美味しい?」
 アロマの香りは、と。
「……アロマパイプだ」
 というか、香りなんかあるかと言って、皆守はアロマパイプに手を伸ばす。
 返せよという言葉に対し、葉佩はアロマパイプを皆守から遠ざけた。