{{category novel,九龍妖魔学園紀,nolink}} !!無題  表情が豊かである。  表情(かお)に出やすい。  どちらも表情の変化に関する形容だが、ずいぶんと語感が違う。前者であれば、天衣無縫や無邪気(イノセンス)などと言った単語が結びつき、後者であれば、間が抜けているとか頼りないなどといった単語が結びつく。いったい、どこに差があって、ここまで印象を違えてしまうのか。  おれの顔に、白濁をあびせかけてから、ほんの数分間。虚脱、羞恥、悔恨、ひらきなおりと、百面相をしてくれた目の前の顔に対し、おれは後者の形容をあてはめながら、そう考えた。  白いゆびさきが伸びてきた。  頬に触れる。  後輩が百面相をする直前、熱い飛沫をぶちまけたのとは反対側だ。  緩くM字を描いた脚の間に、おれは場所を占めていた。半身を起こし、心のままに笑みを浮かべる。  すると、また、後輩の表情が変わった。顎をあげ、目線は下に。侮蔑めいた表情に、口元の歪みが加わり、十二分にケンカを売ることのできる表情が形作られる。 「可愛い後輩からのプレゼントっす」  頬をつたい顎へと移動する熱の感触に、おれは舌を伸ばした。  また、変わる。小生意気な表情が、瞬間湯沸し機みたいな勢いでゆでだこになる。  美味いもののわけがない。当然、舐めたいものじゃあない。だけど、目の前の表情は、大変なごちそうだった。  後輩が口を開くを待たず、おれは湯気を出す頭を掴んだ。  片手でしっかりと後頭部をとらえ、自らの唇を相手のそれに押し当てる。  暴れた。  いろいろと気に入らないことがあるんだろう。だが、おれは放してやるかわりに、後頭部を掴む指の力を強める。同時に、狭すぎるすきまをこじあけるようにして、相手の口中に舌をさしいれる。  裸の胸で感じる相手の裸体は、緊張を解いていない。だが、少なくとも、髪をひっぱろうとか、踵を落とそうとか、不自由な姿勢ながらもその超高校級の拳を炸裂させようとか、そんな抵抗はない。  おずおずと応えてくる不器用な舌先を、思い切り吸った。腕の中の身体が、ぴくりとふるえた。  ゆったりと唇を舐めながら、ほんの少し顔を離す。 「気持ちよかったか?」  焦点もあわないくらいに至近距離にある目をのぞきこみ、ゆっくりと尋ねる。  一瞬の間の後、奔流となって罵詈雑言が溢れだした。それは、さっきまでの甘くかすれた声と同様に、おれにとっては天上の美楽だった。 fin.