{{category novel,世界樹の迷宮2,nolink}} !!ソードマンの独白1  ほしのすなの名前にひれ伏せなんて思ってたわけじゃない。だけど、この街の扱いはどういうことだ。  しわを刻もうとする眉間をほぐしながら、おれはそう考えた。  ファンなんですなんて言われた方が驚いた。だけど、有名らしいね自分は知らないけどって、明らかに一言余計じゃないか? なんだかここでは通用しない栄光を振り回してると言われたみたいで、気分が悪い。まぁ、確かに勲章はありがたく拝領して今はアルケミストがつけているけど。  うだうだとそんなことを考えていると、兵士が足を止めた。 「ここから入り口までの地図をつくるように」  そう言って、おれたちの答えも待たずに、さっさと彼は森の中に姿を消した。彼の後を追えば、多分労せずして地図が出来上がっただろう。けれど、まぁ、彼もこの手の任務には慣れているにちがいない。そんなことを許すはずもないほどに素早くて、そんなずるは不可能だった。もしかすると、なにか道具があるのかもしれない。  彼が去った森はとても静かだった。ほしのすなを作った人たちならば、そこかしこで目を光らす魔物の気配を感じ取れたんじゃないかと思う。だけど、おれたちでは無理だ。  鮮やかな緑色の葉の間から、穏やかな日が差し込んでいる。気温は少し肌寒いが、むしろ動くにはちょうどいい。とても快適だった。快適すぎて、空恐ろしいほどだ。  いくか、と。おれがそう口にすると、皆はそれぞれに頷いた。  闇の中に一筋の光。そして、脇腹に鈍い痛み。遠く聞こえたのは、どうやら自分のうめき声だ。  おれはゆっくりと目をあけた。  覗きこんでいたメディックが小さく頷くのがわかった。そして、てのひらが脇腹に触れる。何をするやめろと言う間もなく、じんわりと心地よい温かさが伝わってきた。 「おれは?」  今度は声が出た。聞くまでもないことに気づく。アルケミストがメディックの肩の向うで肩をすくめている。ああ、そのとおりです。おれはためいきをつく。その様子をみて、メディックが回復したようですねと言った。  とげのある小動物が現れたとき、多分おれたちは油断していたんだと思う。ほんの少しけがをしていたけれど、メディックに治療を頼むことはなかったし、アルケミストも炎を現出させようとはしていなかった。  飛びかかってきた小動物に向けてふりおろした小型の斧が空を切り、しまったと思う間もなく仲間の叫び声を聞く。その後の記憶はない。  森の中で、ほんのついさっき、アムリタを見つけた。それを惜しみなく使ってくれたらしい。おかげでおれは、森の中(ここ)で目をさました。  せめて街の出口が見えていたなら、事情は違っていただろう。だが、今は街へのルートが全く見えていない状態だ。ひよっこのパーティにとって、一人でも戦力が減るのは死活問題だ。  すまないと口にすると、パラディンがてのひらを差し出してきた。掴んで立ち上がる。注意深く体を動かしてみて、おかしなところがないことを確かめる。  もう一度、皆にすまないと言った。  毒を持つ蝶を切り抜け、ほっとする間もなかった。  メディックはこまめにけがを回復させ、アルケミストは容赦なく炎を現出させる。おれが倒れて以来、その方針で街への帰還ルートを探った。  とはいえ。その方針を続けることができないからこそ、おれたちはひよっこと言われている。やがて、アルケミストは荒い息で首を左右にふり、メディックもまだ大丈夫とは言うものの眉間にしわを寄せた。 「申し訳ありません。あと二回が限界です」  その言葉を気にしたせいだろうか。いや、多分そうではない。根本的に相手が悪かったんだと思う。  おれやガンナーの攻撃がことごとくはずれ、辛うじて当てたパラディンのそれも分厚い革にほんの少し傷をつけただけだった。  彼が剣を引き抜こうとしたとき、巨大な芋虫が身体をひねった。  大柄な彼の身体が崩れるのが、やけにゆっくりと見えた。メディックの治癒の光が、虚しく彼の上で散る。だが彼は冷静さを失わなかった。引きますと口にするやいなや、きびすを返す。  否はない。アルケミストはこんな時立ちどまったりはしない。おれはガンナーに向かって、早く行けと怒鳴り、パラディンへとかけよった。  新しい獲物を見つけた芋虫が歓喜の声をあげる。まさに、火事場の馬鹿力だ。繰り返せといわれても困る。おれは、パラディンの身体を回りこんでくる巨体をあしげにすると、それをてこに、背負い投げの要領で大柄な身体を引く。  すり傷が増えるのについては、大目にみてもらうしかない。そのまま、近くの藪へと飛び込んだ。  運がよかったというべきか、そもそもパラディンが倒れた時点でそんなものはないというべきか。  何とか合流を果たしたおれたちは、自分たちが街への出口のすぐそばにいることに気づいた。 「はは……」  よかったな、と。おれは心で意識のないパラディンへと語りかける。  ほんの半日前に、おれたちを森において去った兵士が見える。じっとこちらをみている。  アムリタはもうない。一刻も早く彼を薬泉院に運ばなければ、森の魔物たちのディナーが決まってしまう。あと一度の遭遇だって、なんとかなるとは思えなかった。  だが。 「これではここを通すわけには行かないな」  兜の下で彼がどんな顔をしているのかはわからなかった。  おれの背には意識のないパラディン。真っ青な顔をしているアルケミスト。彼よりはほんの少しマシだが、それでも辛そうなメディック。銃を杖代わりにしているガンナーは、先ほどから足に深手を負っている。おれだって、いつパラディンの巨体につぶされてもおかしくない程度にはダメージを受けていた。 「どうしてもだめか」  兵士は首を横にふる。かしゃりと、腰に下げた剣がなった。 「行こう」  かくなるうえは、と。ばかげた行いが、頭を侵食しはじめる。ぐつぐつと煮えたぎるような思いに、その声は一陣の涼風を吹きかけた。  その声の主、アルケミストは、じっと兵士の背後をみていた。  本当ならば、今すぐにでも宿のベッドにもぐりこみ、泥のような眠りへと落ちたいはずだ。ほんのすぐそこに、それはある。だが。 「行きましょう」  少し遅れて、メディックが言った。おれはガンナーをみる。ガンナーは皮肉に口元を歪めた。おれも多分似たような表情をしているに違いない。  おれたちは、兵士に背を向けた。  地図を確かめ、彼がだめだしをしたはずの場所を推測する。ルートの反対側は一切探索していない。ミッションは一階の地図を作れというものだった。もしかすると、そちらを探索しないことには、完成したとはみなされないのだろうか。  再度、地図を確認した。すると、よくみると連れられていった場所からここまでの間に、少し抜けがある。おそらくは、魔物に追われて逃げていた場所だ。どんな地形だったと頭を付き合わせてみても、誰一人として覚えてはいない。  それは、かけだった。明らかに探索していない場所へと向かうか、それとも。おそらく、両方を見に行く余力はない。  おれたちは、決意した。いつ見収めになってもおかしくない顔だ。ほんの少しだとお互いを鼓舞しあった。  とはいえ、やることははなはだ情けない。魔物の姿をみては藪に飛び込み、木の影に隠れる。震えて止まりそうになるひざを殴りつける。それを繰り返し、やっとこさ空白地帯にたどりつく。  だが。たどりついた先にはなにもなかった。  これを絶望といわずに、なにをそう言うべきか。背負った身体ごと、地下へと引きずり込まれるような心持で、おれたちは地図を見つめた。  これでいいのか。これが要求されたものだったのか。  もしかしたらと、はかない希望を抱きつつ、来た道をたどった。  おれたちは勝利した。  お役所仕事なんてくそくらえ。 fin. 2008年02月23日 おんせんにっき