トップ 一覧 検索 ヘルプ RSS ログイン
  • 追加された行はこのように表示されます。
  • 削除された行はこのように表示されます。
{{category novel,九龍妖魔学園紀,nolink}}
!!ジンクス


 あのおおさわぎと現在をたとえて言うのならば、祭りの後以外にふさわしい言葉はないだろう。 
 ふきっさらしの屋上で、ほどよく冷えた金属(アロマパイプ)を持て余しながら、俺はそう考えていた。 
 ふきっさらしの屋上で、ほどよく冷えた金属(アロマパイプ)を持て余しながら、おれはそう考えていた。 
 春と言うも名ばかりの風の寒さ。だが、春なのだと聞けば、昨日と変わらぬひどく冷たい風も、どこかしら優しく思える。 
 ――なんて、暦とアナウンサーのに影響を受けるおめでたい人間が、どれだけいることやら。双樹がつまらなそうに見ているファッション誌も、パステルカラーが乱舞して、すっかり春の装いだ。いい気になってそんな格好で出歩けば、てきめんに風邪をひくだろう。バードスキンのノースリーブなんて、見苦しい以外の何者でもない。 
 「こーちゃん。ほかの誰が言っても、オマエだけは言うなよ,ソレ」 
 ――なんて、暦とアナウンサーのに影響を受けるおめでたい人間の数はやたらと多い。双樹がつまらなそうに見ているファッション誌でも、パステルカラーが乱舞して、むきだしの腕と脚が健康美を競っている。いい気になってそんな格好で出歩けば、てきめんに風邪をひくに違いない。バードスキンのノースリーブなんて、見苦しい以外の何者でもないんだがな。 
 『こーちゃん。ほかの誰が言っても、オマエだけは言うなよ、ソレ』
 うん? 
 「オマエね。朝晩なら氷点下、昼間だって一ケタ気温の屋上で、ひなたぼっこってどういう修験者よ」 
 いい日差しじゃないか。まぁ、おまえには縁がないか。日陰と日向、風の谷間を感じる繊細な神経ってのは、な。 
 「むしろ俺よかオマエのが寒さに鈍感な、しろくまの神経だろ」 
 俺は声をあげて笑った。 
 そこにはいない存在(やつ)の声。わざとらしいためいきも、宙を仰ぐしぐさも、そして、口唇の端をゆがめた皮肉な笑顔も。あえかな日差しのぬくもりが、傍らの体温に変換されるほど。そう、俺は――いかれていた。  
 『オマエね。朝晩なら氷点下、昼間だって一ケタ気温の屋上でひなたぼっこって、どういう修験者よ』
 いい日差しじゃないか。まぁ、おまえには縁がないだろうけどな。日陰と日向、風の谷間を感じる繊細な神経ってのは。 
 『むしろ俺よかオマエのが寒さに鈍感な、しろくまの神経だろ』 
 おれは声をあげて笑った。 
 そこにはいない存在(やつ)の声。わざとらしいためいきも、宙を仰ぐしぐさも、そして、口唇の端をゆがめた皮肉な笑顔も。あえかな日差しのぬくもりが傍らの体温に変換されるほど、そう、おれは――いかれていた。  
 のんびりと屋上で昼寝でもしながら待っているさ。だから――。 
 ああ、俺は知らなかったんだ。のんびりするにも、ある種の才覚が必要だなんて。今までいくらだってやれたことなのに。砂をかむようなとか、一秒が一時間にもとか、そんな感覚が絶え間なく俺を苛んでいる。気がついたら夕方どころか、ほんの一分も経っていない。 
 それは、そこにはいない人間の声で、鼓膜を刺激されて喜びを感じるほどの煉獄だった。 
 ああ、おれは知らなかったんだ。のんびりするにも、ある種の才覚が必要だなんてことは、想像もしていなかった。今までいくらだってやれたことなのに。砂をかむようなとか、一秒が一時間にもとか、そんな形容が、皮膚感覚として理解できる。気がついたら夕方どころか、時計を見てもほんの一分も経っていない。 
 そこにはいない人間の声で、鼓膜を刺激されて喜びを感じるほどの煉獄だった。 
 まぶしすぎる日差しが、指の間を通して網膜につきささる。乾いた関東の風がのどにしみる。 
 ああ。まだ、ほんとうにまっぴるまなんだ。 
 二月もすぎれば、三年生は自由登校。卒業式がおわれば、それこそ大学受験の報告なんて理由でもなければ、卒業生が学校(こんなとこ)に来る理由はない。 
 二月もすぎれば、三年生は自由登校。寮こそ三月末あたりまで滞在できる。だが、卒業式がおわれば、それこそ大学受験の報告なんて理由くらいしか、卒業生が学校(こんなとこ)に来る理由はない。 
 昼休みのチャイムで屋上にのぼった。ずいぶんと時間がたったはずなのに、まだ終わらないのか。 
 のんびりと昼寝でもしていなくちゃいけないのに。日一日が、いつの間にか過ぎ去っていくみたいな、そんな日常が必要なのに。 
 おれは、のんびりと昼寝でもしていなくちゃいけない。日一日が、いつの間にか過ぎ去っていくみたいな、そんな日常が必要なのに。 
 もっと、のんびりとしていなくちゃいけない。そうしていないからなんだきっと。だから、来ない。だからヤツは帰ってこない。 
 なぜなら、そうやって待っていると言った俺にヤツはうなずいたから――! 
「――」 
 なぜなら、そうやって待っていると言ったおれにヤツはうなずいたから――! 
「――」
 ひどく冷えた空気に溶ける自らの吐息。ほんの一瞬、存在を主張する白い水蒸気。 
 駄目だ。もっと、もっと泰然自若と。そうすれば、そうすればきっと。 
「うあ、さっむー」 
 今日は寒の戻りだそうだ。寒いも通りだろう。 
「つうか、相変わらず修験者だね」 
 うるさい。俺はここが好きなんだよ。 
 うるさい。おれはここが好きなんだよ。 
「シカトすんなよ」 
 なんだと? 
「ちょーっと遅れたのは悪かったけどさ」 
 俺は目を見開いた。 
 おれは目を見開いた。 
「なぁ」 
 金属(アロマパイプ)が打ちっぱなしのコンクリートに転がる音がした。 
 俺は、声が聞こえた方へと振り返った。 
 おれは、声が聞こえた方へと振り返った。 
 思わず後ずさろうとして、フェンスに阻まれる。 
 ガクランの背に、ひどく冷えた金属の感触。 
 目線の先で。 
 図々しいまでに鮮やかな幻が、よぉと片手を挙げた。 
 目線の先で、図々しいまでに鮮やかな幻が、よぉと片手を挙げた。 
「卒業しても制服って、ただの変態よ? それとももしかして――」 
 ヤツは、屋上の扉をしめると、声をひそめ、あたりをうかがった。俺は、たわんだフェンスに打ち出されたみたいに、前に出る。 
 記憶の通りにすっとぼけたヤツを、俺は抱きしめた。 
 ヤツは、屋上の扉をしめると、声をひそめ、あたりをうかがった。おれは、たわんだフェンスに打ち出されたみたいに、前に出る。
 記憶の通りにすっとぼけたヤツを、おれは抱きしめた。 
 それは、幻のくせに温かくて、やけに確かな感触で、腕の中に収まった。


fin.